【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 控えていた側近も知らないようだ。
 正門を守っていた衛兵が慌てて駆けつけてきて、レイノルドにひざまずく。

「申し上げます! 正門の前に、宮殿に入りたいと交渉する馬車がおります。乗っているのは女性。ルビエ公国の公女だと名乗っています!」

 ルビエ公国といえばアカデメイア大陸の極北に位置する大国だ。
 広大な国土のほとんどは永久凍土という寒い国で、温暖なタスティリヤ王国とはだいぶ離れている。

「レイノルド様、ルビエから要人がやってくる予定なんてありまして?」
「ない。が……もしも名乗った通りだった場合、宮殿に入れなければ問題になる。身分を証明する物は持っていたか?」

「はっ。こちらを見せればわかるそうです」

 衛兵の手のひらにはブレスレットがのせられていた。
 武骨な手には似合わない繊細な作りに、マリアの視線が吸い寄せられる。

「青琥珀だわ……」

 ブレスレットは、透明な宝石をつなぎ合わせていて、その一粒一粒の中で金の粒子がキラキラと輝いている。

 これは正確には宝石ではなく化石だ。
 太古の樹液が長い時間をかけて変質したもので、本来は飴色をしているが青琥珀は無色透明なのである。

「青琥珀は、ルビエ公国でしか産出されない希少な品ですわ。あまりに希少すぎて市場には出回りません。わたくしもこれまでに一度しか見たことがございませんわ」

「公女が持つには十分な品と言うことか」

 何気なくブレスレットを手に取ったレイノルドは小首を傾げた。

「青琥珀なのに青くないんだな」
「太陽の光に当てると青くなるのです」

 言われて玄関に進み出たレイノルドは、降り注ぐ光にブレスレットをかざした。
 宝石はぽわっと青い色味を帯びたかと思うと――突然、光を照射した。

「これは魔法?」

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