【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
ルビエ公国のお国柄か知らないが、この性格ではタスティリヤの上流階級でまともに生きていけない。
(こんな人と仲良くなりたくないのだけれど)
どう接したら角が立たないか悩んでいたら、アルフレッドが顔をのぞかせた。
「レイノルド、話が……って、ルクレツィア公女殿下!」
アルフレッドは、ルクレツィアを視界に入れるなり両目にハートを浮かべた。
わずか一日で立派な公女信者になってしまったようだ。
「こんにちは、アルフレッド様。私のことは気にせずにどうぞ」
「なんという寛大さだ! 見た目だけでなく心まで女神のように美しい……!」
「おい」
呆れた顔のレイノルドは、アルフレッドのすねをガンと蹴る。
「痛っ! いきなり何をするんだレイノルド!」
「俺に用事があるんじゃないのか?」
「そうだった! これを見てくれ」
アルフレッドは、小脇に抱えていたファイルを開いた。
挟まっていたのは、宮殿の周囲の地図のようだ。
側近の側近に格下げされた彼だが、最近は仕事も板についてきた。
レイノルドのサポート役として、各所との調整役を果たしている。
「相談したいのは、敷地の奥にある別邸についてだ。ルクレツィア様に使っていただくには改修が必要なので、母上がレイノルドの指示を仰いで進めるようにと」
別邸は、宮殿の離れのような位置づけの建物だ。
かつての国王が寵愛する側妃を住まわせていたが、彼女とその娘が亡きあとは放置されていた。
(人がいないと建物は朽ちていくものだわ。公女様が住むには修理と掃除、家具の手入れが必要ね)
しかし、そのための人員を確保するのは大変だ。
宮殿の手入れは小国らしく最少人数で回しているのである。
「どこから人員を補充するか……」
頭を悩ませるレイノルドに、それならばとルクレツィアが申し出た。
「私の従者たちにやらせますわ。書状の手違いがあったおわびに」
「それはありがたい! 受け入れてはどうだろう、レイノルド」
ルクレツィア信者のアルフレッドは、彼女の言うことなら何でも是と言わんばかりだ。
鼻の下を伸ばした気持ちの悪い顔を見て、マリアは思い出した。
第一王子が、かわいい女性に弱い、とても愚かな人間だったのを。
「よくありませんわ、アルフレッド様。この件をルクレツィア様に丸投げすれば、タスティリヤ王国は国賓の居室すらまともに準備できないと対外的に示すことになります」
外交で重要なのは、いかに対等な交渉相手だと思わせるか。
一方の国力がはるかに下だと、脅されて酷い条件を無理やりのまされる。
どの国も、迎賓館は豪華絢爛なものだ。
あれはもてなしの精神の一環ではなく、こちらを舐めてくれるなよと示すための舞台装置なのである。
「ジステッド公爵家には伝手がありますから、別邸に関してはお任せください。わたくし、レイノルド様のお役に立てるなら何でもいたしますわ」
いずれ王妃になったら、いちいちこんなことで戸惑っていられない。
毎日が難題の連続で、逃げ出したくなる日もあるだろう。
(これは、その予行演習だと思えばいいわ)
堂々と申し出たマリアに、レイノルドは「任せる」と告げた。
「だが……本当にジステッド公爵家だけでできるのか?」
「問題ありませんわ。わたくし、こう見えてあちこちに恩を売っておりますの。ルクレツィア様とご同行の皆さまは、改修が終わるまでごゆっくりなさってください」
「……お手並み拝見いたしますわ」
ルクレツィアとマリアは微笑み合った。
マリアの麗しさとルクレツィアの清らかさがぶつかりあって、見えない電流がバチバチと爆ぜる。
女の戦いはいつだって、男の目には映らない場所で行われるもの。
公女と令嬢の意地のぶつかり合いを、アルフレッドはデレデレと、レイノルドは意味がわからないといった顔で見つめていた。
(こんな人と仲良くなりたくないのだけれど)
どう接したら角が立たないか悩んでいたら、アルフレッドが顔をのぞかせた。
「レイノルド、話が……って、ルクレツィア公女殿下!」
アルフレッドは、ルクレツィアを視界に入れるなり両目にハートを浮かべた。
わずか一日で立派な公女信者になってしまったようだ。
「こんにちは、アルフレッド様。私のことは気にせずにどうぞ」
「なんという寛大さだ! 見た目だけでなく心まで女神のように美しい……!」
「おい」
呆れた顔のレイノルドは、アルフレッドのすねをガンと蹴る。
「痛っ! いきなり何をするんだレイノルド!」
「俺に用事があるんじゃないのか?」
「そうだった! これを見てくれ」
アルフレッドは、小脇に抱えていたファイルを開いた。
挟まっていたのは、宮殿の周囲の地図のようだ。
側近の側近に格下げされた彼だが、最近は仕事も板についてきた。
レイノルドのサポート役として、各所との調整役を果たしている。
「相談したいのは、敷地の奥にある別邸についてだ。ルクレツィア様に使っていただくには改修が必要なので、母上がレイノルドの指示を仰いで進めるようにと」
別邸は、宮殿の離れのような位置づけの建物だ。
かつての国王が寵愛する側妃を住まわせていたが、彼女とその娘が亡きあとは放置されていた。
(人がいないと建物は朽ちていくものだわ。公女様が住むには修理と掃除、家具の手入れが必要ね)
しかし、そのための人員を確保するのは大変だ。
宮殿の手入れは小国らしく最少人数で回しているのである。
「どこから人員を補充するか……」
頭を悩ませるレイノルドに、それならばとルクレツィアが申し出た。
「私の従者たちにやらせますわ。書状の手違いがあったおわびに」
「それはありがたい! 受け入れてはどうだろう、レイノルド」
ルクレツィア信者のアルフレッドは、彼女の言うことなら何でも是と言わんばかりだ。
鼻の下を伸ばした気持ちの悪い顔を見て、マリアは思い出した。
第一王子が、かわいい女性に弱い、とても愚かな人間だったのを。
「よくありませんわ、アルフレッド様。この件をルクレツィア様に丸投げすれば、タスティリヤ王国は国賓の居室すらまともに準備できないと対外的に示すことになります」
外交で重要なのは、いかに対等な交渉相手だと思わせるか。
一方の国力がはるかに下だと、脅されて酷い条件を無理やりのまされる。
どの国も、迎賓館は豪華絢爛なものだ。
あれはもてなしの精神の一環ではなく、こちらを舐めてくれるなよと示すための舞台装置なのである。
「ジステッド公爵家には伝手がありますから、別邸に関してはお任せください。わたくし、レイノルド様のお役に立てるなら何でもいたしますわ」
いずれ王妃になったら、いちいちこんなことで戸惑っていられない。
毎日が難題の連続で、逃げ出したくなる日もあるだろう。
(これは、その予行演習だと思えばいいわ)
堂々と申し出たマリアに、レイノルドは「任せる」と告げた。
「だが……本当にジステッド公爵家だけでできるのか?」
「問題ありませんわ。わたくし、こう見えてあちこちに恩を売っておりますの。ルクレツィア様とご同行の皆さまは、改修が終わるまでごゆっくりなさってください」
「……お手並み拝見いたしますわ」
ルクレツィアとマリアは微笑み合った。
マリアの麗しさとルクレツィアの清らかさがぶつかりあって、見えない電流がバチバチと爆ぜる。
女の戦いはいつだって、男の目には映らない場所で行われるもの。
公女と令嬢の意地のぶつかり合いを、アルフレッドはデレデレと、レイノルドは意味がわからないといった顔で見つめていた。