【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 レイノルドは、毎日なんだかんだとルクレツィアに宮殿を案内させられていた。

 今日こそは仕事を片付けてみせる。
 意気込んで執務室に入った朝、早々にやってきたのはマリアだった。

「おはようございます、レイノルド様。別邸のご用意ができましたわ」
「まだ四日しか経っていないぞ?」

 驚きを隠せない。
 名うての職人を集めても半月はかかると思っていたのだ。

 マリアは、そんなレイノルドがおかしかったのか、ふふふっと笑う。

「早くしないと公女殿下がお帰りになってしまうのではと思いまして。わたくしがご案内しますので、至急お支度をとご連絡くださいな」

 レイノルドは側近に命じて、客室に滞在しているルクレツィアに連絡した。
 荷物をまとめるのに時間がかかるそうで、引っ越しはその日の午後になった。

 ルクレツィア、マリアと共に別邸へ向かう。
 遊歩道は馬車が通れないので、荷物はオースティンとルクレツィアの侍女たちが手で運んだ。彼らは無口で、笑いも泣きもしないため不気味だ。

 見えてきた平屋の建物は、まるで去年建てたかのように白く輝いていた。

「掃除をしたら見違えるように美しくなりましたの。中も見てくださいな。自信作ですわ」

 マリアが鍵で玄関を開けた。

 まず部屋に入って驚く。
 毎日丹念に手入れされていそうな家具や洗練された絵画が、昔からそこにあったように置かれていたからだ。

 足元には厚手の絨毯が敷いてあり、暖炉もすぐに火がつけられるようになっていた。

「たった四日で、これを準備したのか」

 マリアが有能なのはこれまでの行動を見るかぎり明白だった。
 しかし、彼女が得意なのは政治や地理的な内容の方で、今回のリノベーションは完全に門外漢だったはず。

 それを難なくやってのけた。
 その胆力と行動力はレイノルドも顔負けである。

「マリアヴェーラ」

< 302 / 446 >

この作品をシェア

pagetop