【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 ルクレツィアが声を荒げて、やっとオースティンは口を閉じた。

 主に怒られてまで、なぜ魔法の重要性を解いたのだろう。
 けげんな表情をするマリアを見て、ルクレツィアは大声を出した口をナフキンでぬぐった。

「失礼しました、マリアヴェーラさん。オースティンは後で私から叱っておきます。空気が悪くなったので、今日はもうお開きにしましょう」

 招待した側の閉会宣言があっては、マリアは出ていくよりない。

 別邸を離れて、宮殿までの道を歩く。
 ご丁寧にルクレツィア本人とオースティンが同行してくれている。

(見送りというよりは監視ね)

 当然ながら会話は弾まなかった。
 また来てくださいね、と笑うルクレに、愛想笑いで返すのが精いっぱいだ。

 後ろをついてくるオースティンの視線が痛い。
 早く解放されたいと思っていたら、馬車の降車場でレイノルドが待っていた。

 彼は、マリアの顔を見るとほっとした様子で駆け寄ってきて小声で尋る。

「ずいぶん早かったがどうした?」
「執事さんのご気分が悪いそうですわ。おいしそうな紅茶とお菓子は、残念ながら口にできませんでした」

 暗に毒の心配はなかったと告げれば、彼はようやく安堵したらしい。
 王族の中でもっともルクレツィアと接している彼の緊張感は、離れているマリアには計り知れない。

(魔法の話はまだしない方がよさそうね)

 マリアは、レイノルドの腕にそっと触れてからルクレツィアを振り返った。

「今日はゆっくりできなくて残念でした。よろしければ、またご招待ください」
「私もマリアヴェーラさんとたくさん話せるのを楽しみにしています。では、また」

 ジステッド公爵家の馬車に乗り込んで宮殿を後にする。
 マリアは、握りしめていたハンカチを開いて赤いジャムを見下ろした。

「……あの執事、わたくしに何を伝えたかったのかしら?」
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