【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「私も結婚式が楽しみですわ。私とレイノルド様の」
「俺と……? あんた、何言ってるんだ?」
困惑するレイノルドの首にルクレツィアの手がかかった。
細められた紫の瞳があやしく光る。
「貴方はこれから私を愛すんです。オースティン」
「お任せを」
いつの間にか背後にいたオースティンは、レイノルドの背に杖を突きつけて囁いた。
――忘却せよ、忘却せよ。マリアヴェーラ・ジステッドの形、声、仕草、感触、その全てからお前は解き放たれる。我が魔力が続くかぎり、あの女のことは忘却せよ――
耳介を通って体内にすべり込んだ低音が、レイノルドの脳内で反響する。
何重にも跳ね返る音、音、音。
声が一つ響くたび、マリアの顔が、髪の色が、しなやかな指や、柔らかな感触が、ぱっと脳裏に現れては消えていく。
(やめろ)
抗いたいのに、体に力が入らない。脱力した体がぐらっと傾ぐ。
「あ……」
意識を失ったレイノルドを支えたのはオースティンだった。
こんな時まで無表情な彼に、ルクレツィアはいつもと変わりない笑顔で話しかける。
「あの高嶺の花は、愛する人を奪われても平気でいられるかしら。楽しみね、オースティン」