【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 マリアは、レイノルドが好きな青色のドレスに着替え、スズランのブローチをつけて馬車に乗り込んだ。

 彼が仕事に忙殺されている場合を考えて、公爵家で作ったお菓子も持参した。
 バターを練り込んだクッキーだ。

 多忙なレイノルドは、こういった食べやすいお菓子を好む。

(喜んでくださるといいけれど)

 クッキーを入れた籠を手に、第二王子の執務室へ歩いていく。
 最近のマリアはよく宮殿にやってきているため、側近の付き添いがなくてもレイノルドを訪ねられるのだ。

 途中でアルフレッドと行きあったので聞くと、レイノルドはたぶん庭園にいるという。

「ルビエの公女殿下がやってきてから、まったく仕事に身が入っていない。我が弟ながら嘆かわしい!」

 憤然とするアルフレッドは、自分が情けないせいで弟にしわ寄せがいったことに気づいているのだろうか。

「そちらに行ってみますわ」

 マリアは苦笑しつつその場を離れた。

 この季節の庭園は肌寒そうだが、暑がりのレイノルドにとってはいい休憩場所だ。

(学園にいた頃から、お昼寝場所をころころ変えていらっしゃったようですし)

 オレンジ色のレンガを敷き詰めた道を歩いていく。
 秋晴れの空には雲がないものの、少し風が強かった。

 あおられるスカートを片手で押さえて進んでいくと、庭園の入り口にあるアーチの向こうに、白銀色の髪の毛が見えた。

 マリアは、ぱあっと顔を輝かせて足を速める。
 整った横顔がはっきり見えたところで、思い切って声をかけた。

「レイノルドさ――え?」

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