【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 だから、マリアを遠ざけて二人で過ごしていたのか。
 震えるマリアに、王妃は追い打ちをかけるように言い放つ。

「いっそ王妃でもいいわね。次期国王の立場に箔がつくもの。貴方を側妃にすえれば必要なサポートはしてもらえるもの」

 タスティリヤは一夫一妻制だが、王族にかぎっては側妃を持つことが許されている。跡継ぎに困らないためだ。

 でも、マリアはレイノルドにかぎってそんなことはしないと信じていた。
 一途に自分だけを愛してくれると思っていた。

 愛する人の手で、奈落の底に突き落とされたようだ。

 ショックを受けるマリアに対し、フォンダンショコラにナイフを入れる王妃は楽しそうにすら見える。

「私たちにしてみれば、ルビエ公国の公女との結婚は大賛成なんですよ。他国の王族との婚姻は国同士の結びつきを強くします。広大な国土を持つルビエ公国と縁ができれば、いざ戦争が起きた際にタスティリヤの助けになるでしょう」

 それに、子どももたくさんいた方がいいわ、と王妃は続けた。

「私の代では、王子が二人いたから問題にならなかっただけなの。国王陛下には側妃が二人いたけれど、どちらも女の子しか産めなかった。もしもレイノルドが他の妃を取らず、貴方が女の子しか授からなかったら、貴方が国中から責められるのよ。それでは困るでしょう?」

 王妃は情の深いまなざしで、マリアに大人になれと告げていた。

 きっと彼女も苦労したのだ。

 愛する夫が他の女性を愛している最中、正気を保っていられる女性がどれだけいるだろう。
 王妃も何度も苦しみ、悲しみ、そして納得するしかなかった。

 マリアに同じ苦しみを味わわせないためには、結婚前に王族とはそういうものだと理解させるしかない。

 マリアだって、今から慣れておけという言い分は認める。
 だが、引っかかっているのはそこではない。

「レイノルド様は、わたくしと恋をしてくださると約束しました。わたくしだけを愛するとおっしゃった。それを違えるような人ではありません!」

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