【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 もしも相手がアルフレッドだったら側妃を何人迎えられようと耐えられた。
 だって、マリアは彼をそこまで愛していなかった。妃という仕事に就くつもりで結婚を目指していたのだ。

 でも、レイノルドには恋をした。
 誰かを好きになるとは、すなわち心を捧げるようなものだ。

 マリアの心は、死ぬまでレイノルドの一挙一動に振り回される。

 彼が別の女性に恋をしたって戻らない。
 その気になれば、命を絶つほど傷つけることだってできる。

(それはレイノルド様もご存じのはず)

 なぜなら、彼もマリアに恋をしているのだから。

「レイノルド様は信念を曲げる方ではございません。それをご存じだからこそ、国王陛下も次期国王にとすえてくださったのではありませんか。今のレイノルド様は明らかにおかしいんです! どうかお医者様に診せて差し上げてください」

「マリアヴェーラさん、大人になりなさい。レイノルドは男なのよ。女のように恋に一途な生き物だと思わない方がいいわ。あら、ちょうどいい温度ね」

 王妃が割ったケーキの中から、とろけたチョコレートソースが流れ出る。
 ビターチョコを使っているらしく、びっくりするほど黒い。

(わたくしの心が泣いたら、涙はきっと真っ黒でしょうね)

「貴方も食べなさい」
「……いただきます」

 暗い気持ちをぬぐえないまま、マリアもナイフとフォークを手に取る。
 王妃が用意してくれたケーキは、色合いに比べてひどく甘い味がした。

 王妃の部屋を一人で出たマリアは悩んでいた。

 このままジステッド公爵家に帰って、レイノルドの心変わりを納得する努力をするか。
 それとも、国王陛下と近しい人物に働きかけて、レイノルドの様子がおかしいことを伝えてもらうか――。

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