【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
ルクレツィアは、レイノルドの瞳色のドレスを身にまとっていた。
銀糸の刺繍もスカートの広がりも、マリアとまったく同じデザインのドレスを。
それに気づいた招待客たちは、マリアと距離を取って小声で話し始めた。
「国賓であるルビエ公女殿下と同じドレスだなんてけしからん」
「レイノルド殿下を取られた腹いせに嫌がらせしたのでは?」
「まあ、婚約者から心変わりされたという噂は本当だったのね」
陰口に耳を澄ましながら、マリアは扇をぎりぎりと握りしめた。
(やられた!)
他の招待客は、ルクレツィアがサファイア色の衣装で来ると掴んでいたのだろう。
その証拠に、誰一人として青を身にまとってはいなかった。
外国の公女と公爵令嬢では公女の方が格上になる。
上流階級の儀式やパーティーでは、装いが被らないように、下の者が違う色をまとうのが暗黙の了解だ。
ルクレツィアとマリアが同じドレスを着たら、顰蹙を買うのはマリアである。
恐らく、このドレスの送り主はレイノルドではない。ルクレツィアだ。
マリアはまんまと罠にはめられた。
(わたくしを貶めたのは、レイノルド様が自分に乗り換えたとアピールするためだわ!)
忌ま忌ましげにルクレツィアをにらんだマリアは、はっとする。
レイノルドが嫌悪感をむき出しにしてこちらを見ていた。
誤解されていると気づいて、慌てて近寄る。
「レイノルド様、違うのです! このドレスは、貴方のお名前でジステッド公爵家に届いたもので、ルクレツィア様と同じとは知りませんでしたの!」
「嘘をつくな。礼儀知らずが。ルクレツィア公女殿下、我が国の者が失礼した」
レイノルドが目を伏せて謝る。
彼が見ていないのをいいことに、ルクレツィアはマリアに向けてにいっと唇を引いた。
「私は少しも気にしていません。ですが、レイノルド様が悪いことをしたと思ってくださるなら、今日は私とだけ踊ってくださいませんか?」
「そんなことでよければ」
マントをひるがえして、レイノルドはホールの中央へ向かう。
オーケストラの伴奏に合わせてワルツを踊り始めた二人に、会場は釘付けになった。
いずれ国を継ぐと約束された美貌の王子と、大国からやってきた妖精のような公女。
ターンするたびにふわりとなびくドレスの色は、王子の瞳を写し取ったよう。
夢のように美しい光景を、国王と王妃も満足げに眺めている。
胸を痛めているのはこの広い会場でマリア一人だけ。
(わたくしは必要ないのね)
レイノルドと踊るのも、彼のまなざしを一身に受けるのも、マリアでなくていいのだ。
これからタスティリヤの人々は、可憐なルクレツィアに熱狂して、レイノルドとの結婚を望む声は高まっていくだろう。
そうなれば、もはやマリアになすすべはない。
脱力して、マリアは踵を返した。
ホールの外に出て、人気のない控室に入ったところで、ストンと床に腰を下ろす。
そして、すーっと深く息を吸い込むと、
「うぇええええん、レイノルドさまぁ!」
銀糸の刺繍もスカートの広がりも、マリアとまったく同じデザインのドレスを。
それに気づいた招待客たちは、マリアと距離を取って小声で話し始めた。
「国賓であるルビエ公女殿下と同じドレスだなんてけしからん」
「レイノルド殿下を取られた腹いせに嫌がらせしたのでは?」
「まあ、婚約者から心変わりされたという噂は本当だったのね」
陰口に耳を澄ましながら、マリアは扇をぎりぎりと握りしめた。
(やられた!)
他の招待客は、ルクレツィアがサファイア色の衣装で来ると掴んでいたのだろう。
その証拠に、誰一人として青を身にまとってはいなかった。
外国の公女と公爵令嬢では公女の方が格上になる。
上流階級の儀式やパーティーでは、装いが被らないように、下の者が違う色をまとうのが暗黙の了解だ。
ルクレツィアとマリアが同じドレスを着たら、顰蹙を買うのはマリアである。
恐らく、このドレスの送り主はレイノルドではない。ルクレツィアだ。
マリアはまんまと罠にはめられた。
(わたくしを貶めたのは、レイノルド様が自分に乗り換えたとアピールするためだわ!)
忌ま忌ましげにルクレツィアをにらんだマリアは、はっとする。
レイノルドが嫌悪感をむき出しにしてこちらを見ていた。
誤解されていると気づいて、慌てて近寄る。
「レイノルド様、違うのです! このドレスは、貴方のお名前でジステッド公爵家に届いたもので、ルクレツィア様と同じとは知りませんでしたの!」
「嘘をつくな。礼儀知らずが。ルクレツィア公女殿下、我が国の者が失礼した」
レイノルドが目を伏せて謝る。
彼が見ていないのをいいことに、ルクレツィアはマリアに向けてにいっと唇を引いた。
「私は少しも気にしていません。ですが、レイノルド様が悪いことをしたと思ってくださるなら、今日は私とだけ踊ってくださいませんか?」
「そんなことでよければ」
マントをひるがえして、レイノルドはホールの中央へ向かう。
オーケストラの伴奏に合わせてワルツを踊り始めた二人に、会場は釘付けになった。
いずれ国を継ぐと約束された美貌の王子と、大国からやってきた妖精のような公女。
ターンするたびにふわりとなびくドレスの色は、王子の瞳を写し取ったよう。
夢のように美しい光景を、国王と王妃も満足げに眺めている。
胸を痛めているのはこの広い会場でマリア一人だけ。
(わたくしは必要ないのね)
レイノルドと踊るのも、彼のまなざしを一身に受けるのも、マリアでなくていいのだ。
これからタスティリヤの人々は、可憐なルクレツィアに熱狂して、レイノルドとの結婚を望む声は高まっていくだろう。
そうなれば、もはやマリアになすすべはない。
脱力して、マリアは踵を返した。
ホールの外に出て、人気のない控室に入ったところで、ストンと床に腰を下ろす。
そして、すーっと深く息を吸い込むと、
「うぇええええん、レイノルドさまぁ!」