【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 驚くペイジの前に、マリアは一枚の紙を置いた。
 彼が来ることを予想して作っておいた契約書だ。

 ――マリアヴェーラのために製作されたウェディングドレスをそのまま保管する代わりに、ルクレツィアの採寸にマリアを内密に同行させれば、ドレスの代金はジステッド公爵家が支払う。ただし、マリアが公女について探っていると誰にも明かさないこと――

 悪くない条件に、ペイジはおずおずと頷く。

「わかりました。ですが、マリアヴェーラ様は人目を引く方です。内密に同行するのは難しいのでは……」
「心配無用ですわ。わたくしを誰だと思っていますの?」

 高慢に言い切って、マリアは机に立ててあったペンを差し出した。

 ペイジがサインする間も高揚感が止まらない。
 体の内側で燃えさかる炎に燃料をくべているのだから当然だ。

 愉快そうなマリアを横目にしたペイジは、彼女が意外にも好戦的な令嬢なのだと思い知ったのだった。

 大見得をきった翌日、マリアは時間をかけて変装した。

 大きな胸は厚紙と包帯で平らにつぶし、腰にはタオルを巻いて麻のシャツの上にオーバーサイズのベストを重ねる。
 ズボンも女性らしい体型が見えないストレートラインにこだわり、髪は三つ編みにしてキャスケットに納める。

 問題は顔だ。目鼻のパーツが大きくて人目を引く美貌を、どこにでもいるような地味な顔立ちにトーンダウンしなければならない。

「これでどうでしょうか?」

 ジルが取り出したのは黒いフレームの伊達眼鏡だった。
 かけてみると、なるほどダサい。
 おかげで、マリアは絶世の美女から素朴な若者に大変身できた。


 この大変身には宮殿近くで待ち合わせたペイジも驚いてくれた。
 採寸道具の入ったバッグを手に持って一緒に宮殿の門をくぐる。

「そこの二人、怪しいな。どこの者だ?」

 顔馴染みの衛兵に呼び止められてドキッとした。

(さすがに気づかれるかしら?)

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