【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 いつどこで買ったのか、誰とおそろいなのか、思い出そうとすると頭痛がする。

 おぼろげには覚えているのだ。
 城下の市場で待ち合わせて、アクセサリーの屋台を見て回って、気まぐれに入った店で買い求めた。

 相手はブローチだったので女性かもしれない。
 大昔の出来事でもないのに、記憶にかすみがかかっている。

(最近よく頭が痛くなるな。一度、医者に診てもらった方がいいだろうか)

 考えながらジャケットにピンを差すと痛みが和らいだ。

「失礼。レイノルド王子殿下はいらっしゃいますか」

 扉がノックされて、いつでも真顔のオースティンが現れた。
 細い目で部屋の奥にいるレイノルドを見つけると、矢継ぎ早に話しかけてくる。

「ルクレツィアお嬢様が話したいとおっしゃっています。面談室までまいりましたので、至急来ていただきたい」

「またか」

 ルクレツィアは毎日のようにレイノルドとの面会を希望する。

 はっきり言って迷惑だ。しかし、断って機嫌を損ねてもいけない。
 ルビエ公国に睨まれる危険を考えれば、レイノルドは辛抱して付き合うしかなかった。

(ルクレツィアを愛することは一生ないだろう)

 たとえ両国に祝福されて結婚しても、子どもが生まれても、ルクレツィアはレイノルドを満たしてはくれない。
 まだ恋も知らないのに、それだけはわかっていた。

「行ってくる」
「はいはい、頑張ってー」

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