【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 コベントは丸眼鏡を外して、疲れた目元を手でもんだ。
 話すのに体力を使うような重たい話をするようだ。

「記憶の改竄は、魔法が使われるどの国でも禁止されています。使った者は国外追放に処されると、百年前にルビエ公国が代表を務めた、魔法利用に関しての国際会議で決められました。ルビエ公女ともあろう方が、それを侵すとは思えませんが……」

「もしもレイノルド様に横恋慕したら、そういうこともなさるかもしれません」

 大真面目に言うと、コベントは楽しそうに笑い出した。

「恋のためとは、素敵な発想ですね。そういう柔軟な考えは大学の教授にはできない。貴方はいい生徒ですよ」

 ひとしきりマリアを褒めて、さてと立ち上がった教授は、歴史書の詰まった本棚から一冊の分厚い本を取り出して手渡してくる。

「これは国際会議で制定された、魔法に関する五十条を解説した一冊です。記憶改竄がどれだけ罪深いか読めばわかります。実際のルビエ公国で魔法がどんな使い方をされているのかは、マリアヴェーラ様の兄ダグラス様がお詳しいでしょう」

「そういえば、お兄様の留学先の一つにルビエ公国があったわ!」

 兄は留学中にルビエ大公の息子と仲良くなったと言っていた。
 もしかしたら、ルクレツィアが侍女も連れずにタスティリヤにやってきた理由を何か知っているかもしれない。

「ありがとうございました、教授! わたくし、レイノルド様を取り戻すために頑張ります」

 糸口を見つけて表情を輝かせるマリアに、コベントはにこにこと頷く。

「貴方なら、絶対にできますよ」
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