【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 観劇の夜を思い出すと胸がきゅっと切なくなる。

 レイノルドは、恋人だった頃の記憶はなくとも、マリアを泣かせることに罪悪感を抱えていた。
 今まで疎んでいたのに、あの夜は抱き寄せてくれた。

 彼の厚い肩から見えた満月を、マリアはありありと思い出せる。

「レイノルド様は、わたくしの恋人だったことはお忘れです。けれど、心のどこかでは覚えていらっしゃるようでした。わたくしに泣かれると困るそうですの」

「どうでもいい令嬢が泣いたって、何も感じないのが普通だよね。ってことは、レイノルドの中にはマリアヴェーラちゃんへの恋心はちゃんと残っていて、魔法で眠らせられてるってところかな」

「眠っているだけなら、対ショック療法が効くかもしれませんね!」

 ミゼルが拳を振り上げた。
 ヘンリーはその腕をパシッと掴んで攻撃を封じる。

「待って。記憶が戻っても、怪我で再起不能になったら意味ないんだからね。あと、王子サマを殴ったりしたらミゼルちゃんの身が危ないでしょ」
「そうでした!」

 はたと我に返るミゼルを、マリアは口元で手を隠しながらクスクスと笑った。

「わたくしは書物をあたってみましたが、魔法を説く方法はのっていませんでした。ミゼル様とヘンリー様が実践したショック療法でもないとなれば、次の手に出ましょう」

「次って?」
「何をなさるつもりですか?」

 興味津々で前のめりになる二人に、マリアはまるでこれから舞踏会にでも行くかのように、優雅に言い放った。

「力づくで方法を吐かせますわ」
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