【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

26話 ひきこもり魔法少年

「雪さえなければいいところだわ」

 ループレヒトの屋敷で数日過ごしたマリアは、暖炉のある居間から晴れ間を見上げた。

 敷地の中は、猫が歩き回っているおかげで残雪はない。
 けれど、一歩でも敷地を出ると大量に積もっている。人や馬車が通るスペースだけ火炎で溶かしてあった。

 その隙間を通って、ダグラスとループレヒトは王都に向かった。
 ダグラスの親友である大公の三男に、エマニュエル王妃の密書について相談するためである。

 タスティリヤ王国の人間が、じかに大公に渡すのが好ましいため、謁見の調整に数日はかかると思われた。

(お兄様が帰っていらっしゃるまで、わたくしは一人でお留守番ね)

 ふわっ。足元に何かがすり寄ってきた。
 視線を下げると、毛足の長い灰色の猫がマリアのスカートにすりすりと体をくっつけている。

「そういえば、貴方たちもいたわね」

 しゃがんで撫でてやりながら、ループレヒトが言っていた同居人を思いだす。

 引きこもりの魔法使い。
 その人は、誰にも会わないために魔法で作った猫を使い、村の雪を溶かして回り、写真を撮らせて辺りの状況をうかがう。

 度を超えた人間嫌いらしいが、会いに行ってはいけないだろうか。
 交渉次第にはなるが、レイノルドにかかった魔法を解く方法を教えてもらいたい。

『みーっ』

 いきなり猫が苦しそうな声で鳴いた。
 短い手で頭を抱えて苦しそうに体をねじっている。

「ど、どうしたの?」

『みぎゃーー!』

 今度はひときわ大きく鳴いたかと思うと、廊下に向かって疾走し始めた。

「待って」

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