【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 名前まで猫みたいだ、という言葉が喉元まで出かかった。
 ぐっとこらえるマリアから距離を取るように壁際まで移動したミオは、その場に座りこんで寄ってきた猫たちを撫でた。

「みんな来てくれてありがと。えっと、ジステッドさんも」
「マリアでかまいませんわ。その猫たちはミオさんが魔法で生み出したんですってね。実用的なだけではなくて、とてもかわいらしくて素敵」

「猫、好き?」
「ええ。犬より猫派ですわ」

 すると、ミオは目をキラキラさせた。
 シャンパンのように薄く色づいた白金色の猫を抱きかかえて近寄ってきた。

 猫はミオと同じオッドアイだ。彼とは対照的に、左目が青、右目が黄色である。

「この子はニア。僕の友達」
「ミオ様とおそろいなんですね」

 こくんと頷く。人間嫌いで引きこもっていると聞いていたが、コミュニケーションは普通にとれるようだ。

「ニアはもともと人間だったんだよ」
「えっ!?」

 びっくりしてマリアは猫を二度見した。元が人間だったとは思えないが、プリシラの前例があるだけにそういう魔法もあるのだと納得はできる。

「魔晶石で姿を変えているのですか?」
「ううん。魔法に失敗してこうなったんだ。主様がニアに無謀なことを魔法でやらせようとしたせいだよ。魔法使いなんてろくでもない」

「この国で魔法が使えるのは魔法使いだけなのでしょう? 貴族のような特権階級ではないのですか?」
「違うよ」

 短く答えたミオは、手近な椅子に座って丸まったニアの背を撫でた。

「魔法使いは箒と同じ。人じゃなくて道具なんだ。大公一族がいて、その下に貴族がいて、その下に庶民がいて、僕らは一番下の虐げていい存在なんだよ」

 魔法使いは、普通の仕事にはつけない。
 貴族に従属して命令を遂行して、ごくわずかな給金で暮らすのがルビエ公国の常識だ。

 一生、仕える貴族の家から出られない魔法使いもいて、彼らは『飼い猫』と呼ばれるらしい。
 貴族として生きてきたマリアは、手にした箒を握りしめて苦い気持ちになった。

「僕とニアは同じ主人に仕えていたけど、ニアがこうなって追い出されたんだ。困っていたところをループレヒトに拾われた。おじいさんだから雪かきが大変なんだって」

 ミオは、ニアに似せて作った火炎の猫を操り、敷地だけでなく村中に放って雪を溶かしている。
 貴族と違って、町民は感謝してくれるから好きとミオは言う。

「わたくし、ルビエ公国で魔法使いの扱いがそんなに酷いとは知りませんでした。わたくしの国では魔法が禁じられていますので、魔法使いはいないのですわ」

「タスティリヤだよね。平和で温かくていい国だってループレヒトが言っていた。僕もそういう国に生まれたかったな……」

 虐げられて生きてきた魔法使いには、魔法のない国の方が素晴らしく思えるようだ。
 それなら、とマリアは思いついた。

「本気でタスティリヤに来たいのなら、ジステッド公爵家がお力になりますわ。その代わり、わたくしに魔法を解く方法を教えていただけませんか?」
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