【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「解きたい魔法があるの?」

 ミオがけげんそうに聞き返すと、ニアも顔を上げた。
 二人に見つめられながらマリアはもの憂げにうなずく。

「実は、恋人の記憶が魔法で改竄されてしまいましたの――」

 結婚式を控えた相手に、綺麗さっぱり忘れ去られ、その相手をルビエ公国の公女に奪われそうになっている。

 事の経緯を聞いたミオは「禁忌の魔法を使ったんだ……」と憤った。

「大公一家は、魔法使いの扱いがことさら酷いんだよ。よりによって、魔法を知らない国の人に使うなんて許せない! 僕たちが力になるよ。ねえ、ニア?」

「にゃーお」

 ニアも好意的なお返事をくれた。マリアは、彼らならばと事情を打ち明ける。

「わたくしがルビエ公国にやってきたのは、恋人と公女の結婚を止めるためなんです。彼にかかった魔法を解く方法を調べるためでもあるんです。どうか教えてください!」

「そうだったんだ……」

 必死にこいねがったが、ミオの口は重かった。
 ニアが甘えるように頬を舐めて、やっと話し出す。

「……記憶は完全に消去できない。心の奥底に眠らせるだけだと師匠に聞いたことがある。思い出させるには、その人の心を強く揺さぶって眠った記憶を目覚めさせないといけないんだって。その人はどこにいるの?」

「もうじきルビエ公国にやってくる予定ですわ」

 レイノルドはルクレツィアとこの国で結婚式を挙げる。その前に封じられた記憶を目覚めさせなければならない。

 心を揺さぶるという抽象的なやり方にめまいがした。
 たしかな手順も、一発必中の方法もない。マリアにできるだろうか。

(いいえ。やるのよ)

 ルクレツィアの魔の手からレイノルドを取り戻すには、できると信じて行動するしかない。

 マリアは気合いを込めて両手で頬をパンと叩いた。

「やりますわ! 記憶を改竄された相手の心を揺さぶるため、まずは魔法について詳しくなりたいと思います。教えていただけますか?」

「いいよ。ね、ニア?」

 ニアがブンブンとしっぽを振った。

(待っていてください、レイノルド様)

 心強い仲間を見つけたマリアは、雪の向こうにいるだろう恋人を想った。
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