【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 談話室でいくら待ってもジーンは訪れなかった。
 日が暮れてしまったので、ルクレツィアとレイノルド、オースティン、ヘンリーをはじめとした騎士たちは、城近くの塔に移動する。

 石造りの灰色の塔は、地面から天辺までまんべんなく蔦が絡みついている。

 塔の内側には部屋がいくつもあるが、扉や家具には傷がついていて長い年月を感じさせた。
 カーテンやベッドといった布類だけ慌てて変えたようだ。

(帰還した公女を迎えるには、少し冷たすぎないか)

 一時の外遊でタスティリヤ王国を訪れたなら、城にはルクレツィアの部屋が残っていなければおかしい。
 しかし、ジーンの態度や周囲の対応を見ていると、どうも彼女の居場所はなくなっているようだ。

「この塔にいなければならないんですね」

 がっかりするルクレツィアに、荷物を運んで階段を上ったオースティンが嘆息した。

「心配いりません。私が対応しますから」
「いつもありがとう、オースティン」

 ルクレツィアは手を伸ばしてオースティンの頬に触れた。
 うっとりした表情は恋する少女のそれだ。

(ルクレツィアとオースティンは恋人同士じゃないのか?)

 自分の恋人が別の男と結婚式を挙げようとしているのに、オースティンは嫌ではないのだろうか。
 無表情が板について何を考えているかわからない執事だが、時おり寂しそうな瞳をするのが気にかかっていた。

「オースティン、最上階はレイノルド様と私で使います。急いで調えて」
「俺は下の方がいい。式も挙げていないのに同室になるのはよくない」
「結婚は決まっているので遠慮する必要はありません」
「それでもだ。別室で頼む」

 かたくななレイノルドは、ルクレツィアにも押し切れなかった。

 上階の綺麗な部屋は彼女に、レイノルドは下の方の粗末だが広い部屋に入った。
 護衛としてここに寝泊まりするのはヘンリーである。
 他の騎士には、食料を運んでくる者を警戒するように伝えた。

「この塔、幽霊が出そうだよね。かわいい女の子なら大歓迎なんだけど」

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