【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 さっぱりわからないマリアに対して、ミオは深く感じ入った。

「おいしくて、心が揺さぶられたって言ってるよ。ニアはこれが好きだって」

 マリアはホットケーキをまじまじと見た。

「なんの変哲もないホットケーキに、心を揺り動かす効果がありますの?」
「それは違うよ。ニアの心が動いたのは、強く好きだと思えたから。そうだよね?」
「にゃあ」

 ごろごろと喉を鳴らすニアは、蜂蜜がたっぷりかかった残りに噛みついた。
 ミオはそれを眺めながら「人間でも同じだと思う」と付け加える。

「忘れさせられた記憶の中には、その人の大事なものが眠っている。好物の味とか、大好きな人の声とか。そういったものに触れた時、心は揺り動かされるんだと思うよ」

「レイノルド様の好きなもの……」

 彼は、甘くて食べやすいお菓子が好きだ。昼寝もよくしている。
 赤より青。白より黒。
 舞踏会のような華やかな場よりも、満点の星が見える夜空の下のような静かな場所で人と語りあいたいタイプ――。

 レイノルドの好きな物はいくらでも言えるが、どれも心を揺さぶる決定打には欠ける。

 どうしようかと悩んでいたら、コンコン、と控えめなノックがした。

「マリアヴェーラにお客だよ。ヘンリーと名乗っているが知り合いかい?」
「はい! すぐに行きますわ!」

 マリアはお皿もそのままに階下へ降りた。
 居間に飛び込むと、厚手のコートを着込んだヘンリーが片手を上げた。

「おはよ。マリアヴェーラちゃん」
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