【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「ヘンリー様……。貴方がここにいるということは、レイノルド様も?」
「もう城内にいるよ。公女サマと一緒に」

 マリアはタスティリヤ王国を発つ前に、ヘンリーにルビエ公国での滞在先を伝えた。
 レイノルドが入国したら、すみやかに連絡を取れるようにだ。

「こちらは、大公との謁見の場を整えましたわ」

「オレたちは大公にはぶられ中。あの公女サマ、父親にも兄弟にも嫌われてるみたいだよ。それと、オースティンとただならぬ関係みたい。オレは、二人が駆け落ちしたせいで家族に見放されたと思うんだけど、まだ確証はなし」

「そうですか……」

 ルクレツィアが連れ歩く腹心のオースティン。
 二人きりの外遊生活は、駆け落ちの結果だったのだろうか。

 そうは思えないとマリアは首を振った。

「恋人がいて、駆け落ちに成功したら、別の男性を結婚相手に連れて母国に戻るはずがありませんわ。レイノルド様との結婚を画策したのは他の目的があるはずです」

「お金が尽きたとか? でも、魔法が使えるなら仕事はいくらでもありそうだよね。公女サマも、オースティンも、どうして王子サマに執着しているんだろうね」

 二人で頭をひねっていたら、椅子の陰に潜んでいた猫がカシャッと写真を撮った。
 この部屋で何が行われているか知りたいようだ。さっき階段を下りてくる足音がしたし、本人も近くにいるだろう。

「お入りになって」

 マリアが呼びかけると、ミオが恐る恐る入室してきた。
 腕に抱かれたニアを見て、ヘンリーがそういえばと口走る。

「外で燃えてる猫をたくさん見たんだけど、この町の名物って猫の丸焼き?」
「違う! あれは雪を溶かしているだけだよ。僕らの魔法で」
「ふーん。この国には、子どもの魔法使いもいるんだ」

 ヘンリーはにんまりと口を歪めた。
 軽口でわざと相手を焚きつけて、個人情報を聞き出すのは彼の得意技だ。剣の名手なのだが諜報役もこなせる騎士なのである。

 自分が口を滑らせたことに気づいて、ミオは心配そうにマリアを見た。

「大丈夫ですわ。彼はわたくしの味方」

「オレはタスティリヤ王国の近衛騎士ヘンリー・トラデス。君と、そっちの子は?」
「僕はミオ。こっちはニア」

 おずおずと自己紹介したミオは「オースティンが戻ってきたの?」と困惑した。

「せっかく逃げたのに、なんで?」
< 381 / 446 >

この作品をシェア

pagetop