【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

29話 えっけんは捲土重来

 ルビエ大公は、御年七十歳と高齢だ。
 子どもは公子が七人、公女が五人いて、二十歳のルクレツィアが末子になる。

 大公の三男ルーイは、タスティリヤ王国の王妃の密書を携えてきたダグラスの話を聞いて、すぐに大公に申し入れを行った。

(お兄様とわたくしは、タスティリヤ王国からの使者ということになっているわ)

 日程のすり合わせをしている最中に、ルクレツィアがレイノルドを連れて城にやってきた。
 彼女たちが塔に追いやられたのは、マリアたちの存在を気取られずに大公へ密書を渡すためだったのだ。

 そして今日、ついに大公に謁見する。

 宮廷服に身を包んだダグラスにエスコートされて、マリアは城の大広間に入った。
 ルビエ公国の気候に合わせて持ってきた上質なビロードのサーキュラードレスは、足取りに合わせて美しい陰影を作りながら広がる。

 畳んだ扇を手にして優雅に進んでくるマリアに、集まった貴族たちは惜しみない拍手を送ってくれた。

(ここに集まっているのは、大公一族と上流階級の方々だと聞いているわ)

 真正面の玉座では、白に黒い点が混じったもふもふの毛皮をまとった大公が、歓迎の笑みを浮かべていた。
 大公のそばには、ふくよかな体に毛皮のケープをまとった大公妃が寄り添っている。
 ルクレツィアの母である側妃の姿はない。すでに亡くなっているそうだ。

 壇の下にはジーンとルーイ、他の公子たちが並んでいた。
 こちらもマントや腕章に毛皮を使っている。雪に閉ざされた国だから、温かい毛皮が豊かさの象徴なのだ。

 ダグラスはルーイに目で合図してから、大公に向かってひざまずいた。

「ルビエ大公閣下、ならびに大公妃殿下、お目にかかれて光栄です。私はダグラス・ジステッドと申します。彼女は私の妹のマリアヴェーラです」

 紹介されたマリアは両手でスカートをつまみ、ダグラスより頭の位置が低くなるように深く深くお辞儀する。
 ファサッと揺れる亜麻色の髪に目を奪われた大公は、感心した様子でマリアを褒めた。

「久しぶりだのう、ダグラス殿。妹君もこの雪深いルビエにようこそ。これほどまでに美しい令嬢がいるとは知らなんだ。ぜひ我が息子たちの妃に迎えたいものだ。どうかね、お嬢さん」

「ありがたいお話ではございますが、わたくしには婚約者がおります。タスティリヤ王国の第二王子、レイノルド様です」

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