【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 ただの、という認識が誤っていたのかもしれない。
 マリアは、双子の王子たちが苦心していた別邸の改修をたった四日で完成させた。

 ジステッド公爵家の影響力の強さやレイノルドの婚約者だからと重用されているのではなく、彼女自身の実力によるものだとしたら。

(油断できないわ)

 ルクレツィアの前で立ち止まったマリアは、テンの毛皮を張った扇を広げた。

「わたくし、初めてルビエ公国に来ましたがいいところですわね。ここまで上質な毛皮が手に入るとは思いませんでした。ドレスも扇もこちらに来てから作らせましたのよ」
「私の国を気に入っていただけて嬉しいです。どうぞこちらへ」

 暖炉がパチパチと爆ぜる部屋に通す。
 控えていたオースティンは、寒暖差で頬に赤みが差したマリアを見て目を見開いた。

「なぜ、ここに……」

 魔法使いとして虐げられた半生を送り、感情の起伏を失った彼にしては珍しい。
 ルクレツィアは彼が余計な手出しをしないように、命令口調で釘を刺した。

「オースティン、お茶の用意を。マリアヴェーラさんはタスティリヤ王国の使者としていらしたそうよ。二人きりで話したいので、他の人間は近づけないように」

 無表情に戻ったオースティンは、すぐに紅茶とスパイスケーキを準備して戻ってきた。
 テーブルを挟んで向かい合ったマリアは、乾燥させた花びらが浮いた紅茶には手を付けずに話し出す。

「ずいぶんと古びた塔にご滞在なのですね。魔女の住処かと思いましたわ」
「外遊から急に戻ったので、私の部屋の準備が追いつかなかったんです。もともと使っていた部屋は姪のものになっています」

 あり得そうな理由を並べたのだが、マリアは引っかかった様子で頬に手を当てた。

「不思議だわ。外遊に出かけた公女の部屋を勝手に他の者にあてがうものかしら。普通は帰ってくるまでそのままにしておくでしょう。わたくしには、ルクレツィア様が嫌がらせをされているようにしか思えないのですけれど」

 棘のある言葉に、ルクレツィアの眉がぴくんと動く。

「……何をおっしゃりたいのかわかりません」

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