【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「こっ、こんなの全くの偶然だわ。だって、わたくし、あの方にはまったく、これっぽっちも、ときめかなかったもの! それに、子どもに優しいかどうかは分からないし、友好的に周りと接している場面も見たことがないわ!」
「大声を出してどうしたの、マリアヴェーラ。部屋の外にまで響いていましたよ」

 書斎の扉を開けて、デイドレス姿の母が入ってきた。

「お母様」

 マリアの母は、上流階級の夫人にしては穏やかな性格の人だ。
 父がマリアを立派な公爵令嬢にしようと熱心だった一方で、母は教育はほどほどにして、マリアの心が安まるように刺繍を教えたりや散歩に連れ出してくれたりした。

 その優しさは、マリアの心の支えにもなっている。

「申し訳ありません。みっともない姿をお見せして……」
「かまいませんよ。あなたが楽しそうで、母はとても安心しました。ひどく落ち込んでいるのを心配していたのです。他の縁談が持ち上がっても、今は傷に塩を塗り込むようなものと思って、別のお話を用意したのですよ」

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