【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 ルクレツィアは、オースティンを通じて王都近くにいる魔法使いたちを集め、彼らが貴族から受けた仕打ちを暴いた。
 魔法使いは道具ではなく人間であると主張して、迫害される身分からの解放を訴えたのだ。

「ルクレツィアお嬢様の言葉に、平民たちの多くも耳を傾けて賛同しました。多数の嘆願書が城に届き、貴族会議の議題となったのです。その次の晩でした。ルクレツィアお嬢様の元を、大公の魔法使いが訪ねてきたのは……」

 ミオとニアは、大公に命じられてルクレツィアを監禁し、オースティンへの恋を諦めさせようとした。
 しかし、ルクレツィアはどんな脅しにも屈しなかった。

 そこにオースティンが駆けつけた。
 城を脱出した二人は、解放運動の仲間である魔法使いたちの手で国外へ逃げたのだ。

「なぜ、そのまま外国にいなかったのですか。誰も知らない土地で、偽名でも名乗って結婚すればよかったのではありませんか」
「それでは意味がありません。私は、お父様に認めてほしいんです」

 ルクレツィアは父親の評価にこだわりすぎている。
 魔法使いの娘として生まれ、公女にも関わらず大公にかえりみられなかったせいだ。

 親に愛されなかった子どもは、心に空虚さを抱えて大きくなる。
 背が伸び切っても、恋人ができても、親に認められるかどうかを基準に行動してしまう。

 たとえ全力で逃げるべき場面でも、わずかな(今度は認めてもらえるかもしれない)という希望を持って、元の場所に戻ってしまうのだ。

(親は子どもを産むかどうか選べるけれど、子どもはどの親の元に産まれるか選べないわ)

 マリアには、あの大公が改心して魔法使いの地位を上げ、ルクレツィアとオースティンの結婚を認めるようになる姿をどうしても想像できない。

 口では上手いことを言い、相手の幸せな未来を摘みとる。
 大公がそういう抜け目ない人間であるということは、レイノルドをルビエに留めおこうとした性格からもわかる。

 魔法使いが従属させられているように、ルクレツィアもまた、父親の呪縛から解き放たれなければ、この件は解決しない。

 マリアは毛皮の扇を置いた。タスティリヤの使者ではなく、マリアヴェーラ・ジステッドというただの女性として話すために。

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