【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「わたくし、恋が好きですわ。恋をするのも恋をしている人を見守るのも、同じくらい好きです。ルクレツィア様とオースティン殿にも幸せになってほしいと心から思っています。お二人とも、ルビエ公国での仕打ちは忘れてタスティリヤで暮らしませんか?」

「嫌です。この国の魔法使いを見捨てて、自分たちだけ幸せになるなんて。そうよね、オースティン」
「…………」
「オースティン?」

 ルクレツィアに声をかけられてもオースティンはうんともすんとも言わなかった。

 彼がマリアを見る瞳は、氷のように冷たく、爆発寸前のマグマだまりのように熱い。
 よそ者が口を出すなと言わんばかりの気迫だ。

「貴方の使者としての交渉事は、私たちにタスティリヤでの夫婦生活を保障する代わりに、レイノルド王子殿下を返せということでしょう。結局、自分のことしか考えていない」

「自分の……」

 マリアが声を上げて笑い出したので、オースティンは気味悪がった。

「何が面白いのですか」
「だって、当たり前のことをおっしゃるんですもの。この世界では、誰しも手の届く範囲でしか行動できませんのよ。自分の願いが最優先になるのは当然ですわ。わたくし、食糧難に陥っているルビエ公国にタスティリヤから穀物を運び入れる条件で、レイノルド様を返してもらってこいと王妃殿下に命じられておりましたの。わたくしはレイノルド様さえ戻ってくればいいと思っていましたが、お二人の話を聞いて気が変わりましたわ」

 立ち上がったマリアは、カツカツと靴音を立ててルクレツィアに歩み寄った。

「何か?」

 眉をひそめる彼女の顔をのぞき込む。
 ルクレツィアはやせ形で背も低く、高身長で女性らしい体つきのマリアと並ぶと大人と子どもだ。

 大公と戦うにはあまりに小さい女性。
 だからこそ、マリアは力になりたいと思った。

「この国の魔法使いを解放するお手伝いをいたします」
「方法があるのですか?」

 驚くルクレツィアに、マリアは真っ赤な唇を持ち上げて鮮やかに微笑んだ。

「実はわたくしも魔法がかけられますの。どうぞご期待くださいませ」
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