【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「ルーイ様はお料理をされるんですね。何をお作りになるのですか?」
「この時期は温かい料理が多いよ。ミルクをたっぷり使ったシチューやグラタン、カボチャのサラダも得意だ」
「まあ、わたくしが好きな物ばかりだわ」
「そ、そう?」

 素直に反応すれば、ルーイはドキッとした様子だ。

(こういう方ほど寂しがり屋で、共通点のある相手に懐きやすいのよね)

 あと一押し。マリアは奥の手を使うことにした。

「わたくし、ルビエ公国にやってくる前にカボチャのクッキーの作り方を覚えたのです。よければ一緒に作りませんこと?」
「いいの? 君は婚約者がいるのに」

「レイノルド様はルクレツィア様にぞっこんですわ。妖精のようにお美しい方で、わたくしではとてもかないません……」

 同情を誘うため、悲しそうに長いまつ毛を伏せる。
 ルーイから見て自分が一番美しく見えるような角度で。

 恋人に捨てられた過去があるルーイは、がっと力任せにマリアの両肩を掴む。

「君の方が美しいよ。ルクレよりずっと魅力的だ。レイノルド殿下がなぜ君を大切にしないのかわからない。こんなに素敵な人なのに!」

 目に力を入れて必死に語りかけてくる彼を見て、マリアは心の中でほくそ笑んだ。

(かかったわね)

 マリアにかけられる魔法。それは、恋だ。
 かつて、ルーイの恋人がダグラスに心を奪われたと聞いて、マリアは自分にもできると踏んだ。

 なぜなら、マリアはタスティリヤ王国の人間だからだ。

(お兄様が留学先でモテたのは、タスティリヤ人が魅力的に映るからだわ)

 見た目も雰囲気も雪のように儚げなルビエの人々にとって、タスティリヤ人の陽にさらされた肌や活力を感じるはっきりした目鼻立ちは、ことさら美しく見えるのである。

(ルーイ様にしてみれば、わたくしは突然目の前に現れた魅力的な女性。そして、自分の境遇や趣味に共感してくれた数少ない相手だわ)

 人間は、共感した相手に好かれたいと無意識に思い込むものである。
 そして、幸福を手に入れるチャンスが目の前に現れたら、自動的に脳が興奮状態におちいってしまう。

 恋をしている間は正常な判断ができないと言われる理由がこれだ。

 たぶん、ルーイはずっと恋がしたかったのだろう。
 学生時代の失恋のせいで臆病になっていただけで、本当はマリアのように歩み寄ってくれる女性を求めていた。

 すべての要素を組み合わせ、マリアはルーイに恋の魔法をかけた。

「ルーイ様?」

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