【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 戸惑った感じを出すと、ルーイははっとして手を離した。

「すっ、すまない。急に触れたりして!」
「かまいませんわ。その……ルーイ様に触れられるのは嫌ではありません。こんな男の人、わたくし初めて……」

 わざとらしく、ぽうっと頬を染めて彼の胸に寄りかかる。

「よければ、わたくしと仲良くなってくださいませんか?」

 上目づかいでねだると、ルーイは胸を押さえて「ぐっ」とうなった。

「も、もちろんだよ。明日にでもクッキーを一緒に作ろう」
「まあ嬉しい」

 両手を合わせて喜ぶふりをすれば、ルーイの瞳がギラギラとその様子を映した。
 これから彼は、夜ごとにマリアの姿を思い出して胸を焦がすだろう。

(攻略完了だわ)

 マリアは笑顔を弾けさせて、次の標的の居場所を尋ねた。

「ジーン様はどちらにおいでですか? ルクレツィア様のことでご相談がありますの」
「会いたいなら連れていってあげるよ」
「教えていただければ一人で平気ですわ。ルーイ様は稽古を続けてくださいませ。わたくし、強い男性が好きなんです……」
「はぁうっ!」

 ルーイはおかしな悲鳴を上げて鼻を押さえた。手の下からツーっと赤い血が流れる。
 鼻血が出たようなので持っていたハンカチを差し出した。

「これをお使いになってください」
「ありがとう。ジーンはいつも長廊下の向こうの鏡の間にいるよ」

 彼が指さした方向を見て、マリアは微笑む。

「あちらに……。わかりましたわ。ルーイ様は血が止まるまでゆっくり休んでいてくださいね」

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