【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「別のお話、というと?」
「修道院に入ってはどうかと思って」

 母は、海のそばにある修道院への推薦状を見せてくれた。
 公爵家が懇意にしている司教に書いてもらったものだ。

「望まぬ縁談を強いられた令嬢には、修道院に入って結婚から逃れる道もあります。世俗をいっさい絶った場所で、つつましやかに生きられる方が、好きでもない相手と一緒になるより幸せですからね。入るには多額の喜捨が必要ですけれど、愛する娘のためですもの。母が都合しますわ。レイノルド様からの求婚が受け入れられないならば言ってちょうだい。すぐに支度を調えますからね」

 母の提案はあくまでマリアの意思を尊重したものだった。
 もしも話が持ち込まれたのが、アルフレッドに婚約破棄を言い渡されてすぐだったら。マリアは、泣きながら飛びついていただろう。

 だが、今は――。
 マリアは、閉じたノートを胸に抱いて、レイノルドの姿を思い浮かべる。

< 40 / 446 >

この作品をシェア

pagetop