【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「うーっ!」

 ジーンの名前を聞いた途端、ニアは目を三角に吊り上げて背中の毛を逆立てた。

(嫌いなのかしら?)

 ぴょんと飛んだニアは見えない壁に爪を立てた。
 ギ~ッとすさまじい音が鳴って、思わず耳を塞ぐ。

「ニアさん、何を――」
「なんだ、この音は!」

 奥の扉が開かれて、中からジーンが現れた。
 絹糸のように白く長い髪はほつれて、手には丸めた鞭を握っている。

 きつい性格なのは知っていたが、あまりにも公子らしさとはかけ離れた姿で、マリアは少し面食らった。

「こんにちは、ジーン様。お騒がせして申し訳ありません。この子がどうしてもこの先に行きたいらしくて」

 困り顔でニアを抱き上げる。
 ジーンは、機嫌が悪そうな猫を一瞥して、壁のこちら側に腕を伸ばしてきた。

「これは魔法でできている。内側にいる者の手を取ってくぐれば通り抜けられる」

 彼の手を握って歩き出すと、見えない壁にはばまれることなく先へ進めた。

「魔法って不思議ですわね」
「そういえば、タスティリヤは魔法を禁じているのだったな。せっかくだ。新しい魔法を開発させたので見ていくといい」

 ジーンはマリアを鏡の間へ導いた。
 部屋の中なのに強い光に目がくらんで、マリアは思わず顔を背けた。

「まぶしい……!」
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