【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

35話 はきだめに女神降臨

 魔法のないタスティリヤで生まれ育ったマリアの目には、公子であるジーンも魔法使いも同じ人間に見える。
 けれど、この国には歴然とした格差が存在し、魔法使いの命にはなんら価値がない。

 ルビエ公国は階層に支配された国なのだ。

(大公一族と貴族は、その仕組みに甘んじて生きてきた。けれど、わたくしは魔法使いの方がずっと強大な存在だと思うのよね)

 国中の魔法使いが結託すれば、国の仕組みさえひっくり返せるだろう。
 ルクレツィアが失敗したのは、ミオやニアのような大公直属の魔法使いまでは味方にできなかったせいだ。

 近くでガラス管に魔力を送っていた若い魔法使いがふらりと倒れた。
 駆け寄ったマリアは、その体を抱き起こす。

「大丈夫ですか?」
「は、はい! まだ動けます。だから、どうか鞭打ちだけはお許しください!」

 おびえた顔で身を縮める彼の手や顔には、古傷がたくさんあった。
 手の甲の傷はついたばかりで血がにじんでいる。

「鞭打ちなんてしませんわ。同じ人間ではありませんか」

 マリアは、胸元から取り出したハンカチで傷のついた手をぎゅっと縛った。

「血が止まるまでこのまま圧を加えてください。できたら綺麗な水で洗って、傷の周りを清潔になさって」

 傷を手当てしたマリアを、若者は驚きに満ちた顔で見つめた。
 魔法使いに親切にする貴族を初めて目にしたのだ。

 マリアは、膝にうずくまったニアに小声で告げる。

「あとで傷薬を運んでくださる?」
「にゃーお」
「その声……もしかしてニアか?」

 囁く若者にニアはウインクした。
 顔見知りだったらしい。

 荒っぽく歩み寄ってきたジーンは、青年を蹴飛ばした。

「何をなさるのです、ジーン様!」
< 402 / 446 >

この作品をシェア

pagetop