【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 ニアを足下に下ろしたマリアは、ようやく溜飲を下げたジーンに近づく。

「差し出がましいことをいたしました。タスティリヤでは王侯貴族と平民の差はあるものの、その下の階層の人間はおりませんの。コベント教授にルビエ公国ほどしっかりと階級社会が維持できている国はないと聞いておりましたので、この機会に勉強させていただきたいですわ」

「コベントだと!? 君は、『魔法の有無における相対的歴史学』でアカデメイア・クライド賞を受賞したコベント教授に教えを受けているのか?」
「ええ。わたくし、タスティリヤ王国の王子妃候補ですので、素晴らしい先生方に師事していましたの」

「素晴らしい! 私はコベント教授の著書は全て読んでいる。それによると、魔法のない国は生活に不便で戦争の際に不利だが、長期的な平和を維持できるそうだな。だが、私に言わせれば魔法のある国の平和の方が強固だ。反乱や諍いを起こしそうな人間を、魔法の力で根こそぎ弾圧できるのだから。コベント教授のご意見をうかがいたいものだ」

「タスティリヤにいらっしゃったら、わたくしから教授におつなぎしますわ」
「ほ、本当か!?」

 ジーンは目をキラキラさせて、マリアの両手を取った。

「感謝するぞ、マリアヴェーラ殿。大公に許可を取っておこう。貴殿の帰国にあわせて私もタスティリヤに渡る!」
「わたくしは、ルクレツィア様を説得でき次第、帰国しますわ。それまでに準備をしていただける?」

「もちろんだ。教授にお持ちするルビエの土産も用意しなくては」

 別人のようににこやかな笑顔を見せたジーンは、鞭で床をパンと叩いて声を張り上げた。

「私はしばらく実験ができなくなる。お前らは宿舎で帰還を待つように!」

 魔法使いたちは、信じられないような、ほっとしたような顔つきでマリアを見た。

(大丈夫。何もかもお任せください)

 彼らと同じような目で、ニアもまたマリアを見上げたのだった。


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