【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 先日、塔にやってきてルクレツィアとオースティンの関係を暴いた彼女は、魔法使いの解放運動に協力すると言ってくれた。
 半信半疑で見送ったが、まさか兄に近付くとは思っていなかった。

 ルーイはこう見えて、解放運動を弾圧するけん引役だった。
 たとえ色恋で味方に引き入れようと、マリアの目的が魔法使いの魔法だと知った時点で目が覚める。

(狙いは別にありそうです)

 オースティンを見上げると、彼もわずかに眉を上げて戸惑っている。
 ヘンリーに護衛されたレイノルドの方はというと、顔が真っ青だ。

「マリアヴェーラは、あいつと恋人だったのか?」
「違うと思います」

 レイノルドを取り戻すためにルビエ公国までやってきた女性が、旅先で見つけた別の相手に乗り換える確率は、太陽がルビエ公国に落ちるより低いだろう。

「マリアヴェーラさんなりに目的があって、ルーイお兄様に気のあるふりをなさっているんです。私もレイノルド様にそうしましたから……」

 崇高な目的を果たすためなら、女性は大女優になる。
 興味のない相手に惚れた演技をして、ささいな自慢に大げさに驚き、自分を馬鹿に見せることだって辞さない。

 本性を隠して生きなければ幸せになれないという意味では、魔法使いより女性の方がずっとあわれだ。

(マリアヴェーラさんは、私よりずっと演じるのがお上手です)

 彼女にも隠したい秘密があるのだろうか。
 魔法使いを愛し、彼らを解放したいというルクレツィアの望みより、ずっと重くて致命的で誰にも見せられない本性が――。

「人間は恋によって判断力を失い、また判断力を失うことによって恋をする、とはよく言ったものだな」

 ジーンの冷ややかな声に、ルクレツィアは現実に引き戻された。
 ルーイに比べて落ち着いて見える彼もまた、マリアヴェーラの国タスティリヤへ行きたいらしい。

「ルーイのこんな姿を見るのは複雑ではあるが興味深い」
「そういうお前は、どうしてタスティリヤに行きたいのだ。ジーン」

 大公に尋問するような口調で問いかけられて、ジーンは軽く肩をすくめた。

「マリアヴェーラ嬢は、歴史学の権威であるコベント教授に教えを受けているそうです。教授は、魔法の有無が国勢にどんな影響を与えるかの論文を発表し、アカデメイア中に波紋を広げた学者ですよ。彼女が仲介してくれるそうなので、ぜひ私も師事したいと思っています」

「お前にも、あの貴族令嬢が絡んでいるのか!?」

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