【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 どうなっているんだと大公は頭を抱えた。
 それを見て、ルクレツィアははっとする。

(タスティリヤに公子二人を連れていって、そのまま人質にするつもりですね!)

 図らずも、それはレイノルドをルビエ公国に連行したルクレツィアとまったく同じ手口だった。
 公子を自分の国に入れてしまえば、生かすも殺すも彼女次第だ。

 公子を取り戻すために大公が戦争を決心しても、タスティリヤに進軍するにはいくつかの国を経由しなければならない。
 タスティリヤは近隣国一帯の食糧庫と呼ばれている。周辺の国は、大国のルビエではなくタスティリヤ側について、ルビエ軍の入国を拒否するだろう。

(ここでルーイお兄様とジーンお兄様を止めなければ、必ずルビエ公国は負けるわ)

 なんて鮮やかな作戦だろう。

 マリアヴェーラは、高嶺の花などではない。
 美しい姿の裏に鋭い牙を隠し持ち、旅人を森の奥へいざなって噛み殺す、おぞましい怪物だ。

 ほとほと困り果てた大公は、動けずにいた兵たちに命じた。

「ええい! マリアヴェーラ・ジステッドをここへ呼べ!」

 怒鳴り声が響くと同時に、ギギギッと玉座正面の扉が開いた。

「お呼びでしょうか?」

 そこに立っていたのは、呼び出しを受けた張本人。
 鮮やかな深紅のドレスに身を包んだマリアが、毛皮のついた扇を片手に微笑んでいた。

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