【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

37話 あらわれよ交渉舞台

 細いヒールをカツカツ鳴らして入ってきたマリアは、目深にフードを被った子どもと薄金色の猫を従えていた。
 猫の首輪には、赤い薔薇のつぼみがついている。

 しんがりを歩くダグラスの、眉間に渓谷ができそうなほど険しい顔を見て、人々は口を閉ざす。
 大公は幽霊でも見たかのように狼狽して、玉座から滑り落ちそうになった。

「なっ、なぜここに!」
「大公閣下がわたくしをお呼びになったのではありませんか。お待たせしてはいけないと思って、急いでまいりましたのよ?」

 マリアは笑顔で大嘘をついた。

 当たり前だが、大公が呼んだから屋敷を出たわけではない。
 ルーイとジーンが今日この時間に行動を起こすと見越して、廊下に立っていたのである。

(ルーイ様もジーン様もわかりやすい方でよかったわ)

 二人に近付いた日から、マリアは城へ通い詰めた。
 午前中はルーイとお菓子作りをしてそのままお茶を。
 午後はジーンとアカデメイア大陸の情勢について語り合った。

 人間は、接触回数が多いほど相手を好きになるものだ。

 異性を避けていたルーイが、毎日のように自分に会いにきて愛嬌を振りまくマリアにぞっこんになるまでに時間はかからなかった。

 それはジーンも同様で、研究者レベルの知識と聡明さをそなえたマリアとの会話がよほど楽しかったようで、通うたびにお土産を持たせてくれた。
 高慢な彼が城の外まで見送りに出るので、衛兵たちもぎょっとしていた。

 かくしてマリアは、公子二人を名実ともに落としたのである。

(これこそ、わたくしが使える魔法よ)

< 409 / 446 >

この作品をシェア

pagetop