【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 大国を治める主上が、自分より二つも年下の令嬢に気圧されている。
 大公の敗因は、マリアが想像以上に強かで、打たれ強い女性だと気づけなかったこと。

 ほっそりした頬にはたいた赤いチークや、強くカールをかけたまつ毛をよく見ていれば、彼女が勝利を確信してここに来たと感じられたはずなのに。

(マリアヴェーラさんは恐ろしい人です……)

 もしもマリアが魔法使い解放運動を率いていたら、何もかもが上手くいっていたはずだ。

 ルクレツィアがルビエ公国を変えられなかったのは、大公一族や貴族が反発したせいではない。
 彼らを黙らせるほどのカリスマ性がなかったからだ。

 悔しい。ぎゅっと拳を握ると、オースティンの手が背中に回った。

「落ち込むのは早いですよ。彼女の魔法はまだ残っています」
「魔法?」

 ばっと横を向いたルクレツィアは気づいた。
 オースティンの胸元に、見慣れない薔薇の造花が飾られている。

「それは……」

 しーっと口元に中指を立てられた。
 意味がわからず混乱するルクレツィアに、マリアが声をかける。

「ルクレツィア公女殿下、どうぞこちらへ」
「は、はい! オースティン、レイノルド様をお守りして」

 ルクレツィアは、マリアの隣に並び、大公に一礼した。

「タスティリヤからルビエ公国へ食糧を融通する取り決めに対して、ルクレツィア様を何度か交渉を重ねてまいりました。とある条件で合意しましたので、大公閣下にご報告を」

「レイノルド王子殿下を国に返すことを承知したのだな、ルクレツィア! 偉いぞ!」

 大公の顔に希望が差した。が、ルクレツィアは表情を曇らせたままだ。

 なぜなら、合意などしていないからである。

 言うべき言葉が見つからずに困っていたら、ルクレツィアの肩にマリアが触れた。

「わたくしたちの取り決めた条件は、これですわ」

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