【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 マリアがパチンと指を鳴らす。
 それを合図に、ミオがフードを脱いで、内側に書かれていた魔方陣を床に広げた。
 大きな円に、幾何学的な図形とルビエ語の呪文がびっしりと書き込まれている。

「お前は!」

 大公が騒ぐのを無視して、ミオはベストにつけた薔薇と、魔方陣に手を当てて詠唱した。

「Oikahanet oamakan oy oham!」
「にゃあああああおおおおん!」

 ニアの叫びが響き渡ると、会場の壁という壁が鳴動し始めた。

「なっ、なんだ?」
「壁が揺らめいているぞ!」

 波打つ壁は、カーテンのように移動していき、隠されていた本物の壁と、そこに隠れていた者たちをあらわにする。

「いつからそこに……!」

 大公らは、壁の前にずらりと並んだ魔法使いたちに驚愕した。

 彼らは、ミオと同じように使い古しのフードをかぶり、胸にオースティンと同じ赤い薔薇の造花を飾っていて、並んでいる姿は覆いしげった薔薇の生垣のようだ。

 彼らを背にしたマリアは、中心に咲くもっとも美しい一輪。
 手を伸ばせば、鋭い棘で血を流すことになる、危険をはらんだ花だった。

「さあ、交渉を始めましょう」
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