【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 自らが仕掛けた罠に、自分の手で解決の糸口を与え、この場を掌握する。

 ルクレツィアの懸念である『魔法使いの解放』をマリアが代行し、誰一人として敗者を生み出すことなく、レイノルドを取り戻すのが真の目的だ。

(そのために、ずいぶんと多くの人間を騙してしまったわ)

 大公をはじめとしたルビエ公国の貴族には、今のマリアは悪人として映っているだろう。
 騙されているのは、集まった魔法使いたちも同じだ。

 ミオが作った薔薇の造花にメッセージをたくして、ルビエ公国中に、ルクレツィアに代わってマリアが魔法使いを解放するから共闘してくれとお願いした。

(大公に酷使されていた魔法使いとオースティンが参加すると聞いて、都近辺にいる魔法使いは主に歯向かってまで駆けつけてくれたわ)

 自らの目的のためなら大嘘だってつけるマリアだが、虐げられている彼らを利用した分は、恩を返すつもりだ。

 マリアは眼光を鋭くして、再び大公に呼びかけた。

「大公、ルビエ公国の転換期が来たのです。魔法使いたちにも平民と同じだけの権利と日常をお与えください」

「ならぬ! タスティリヤの使者に、我が国の何がわかるというのだ。魔法使いは、虐げられるだけの理由があるのだ! それが条件なら、タスティリヤの食糧などいらぬ!」

 大公は唾を飛ばして拒否した。
 食糧より不変を選んだ大公に、ルクレツィアは落胆した。

「これでもだめですか……」
「あら、勝負はこれからですわ」

 愉悦を抑えきれない様子で、マリアはミオを手招いた。

「わたくしの薔薇をいただける?」
「マリア様のはこれだよ」

 ミオが手渡してきたのは、魔法使いたちが服につけたのと同じコサージュだった。
 マリアは、それを天に高く掲げた。

「大公がわたくしの要求をのまない場合、赤薔薇を身につけた魔法使いを全員、タスティリヤに亡命させますわ」
「なんだと!?」

 会場に今まででいちばん大きな動揺が走った。
 ルビエ公国は大公一族と貴族によって治められている。
 その実、彼らの生活や仕事の大部分は魔法使いに依存しているのだ。

(つまり、魔法使いを取り上げてしまえば、ルビエ公国は崩壊する!)

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