【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 赤薔薇の印をもって魔法使いを解放しようとするマリアを、若者たちは大いに盛り立てた。

「マリアヴェーラ様は、我々を救うために立ち上がってくださった女神だ!」
「ルビエで虐げられるなら、みんなでタスティリヤへ行こう!」
「マリアヴェーラ様! マリアヴェーラ様!」

 魔法使いたちは何度もマリアの名前を呼んで喝采した。
 次第に大きくなるかけ声に、ルクレツィアは胸がいっぱいになった。

 自分の手では起こせなかった革命の風が、マリアの手によって今、ルビエ公国に吹き荒れている。

 魔法使いは虐げられるだけでなく、強い存在なのだと信じてきた。
 手を取り合って戦えば奇跡は起こせると信じて、行動して失敗して。

 それでも諦めきれなかった景色を、マリアが見せてくれたのだ。

 感極まって震える肩をオースティンが抱き寄せる。

「すごいですね。マリアヴェーラ様は」
「ええ。素晴らしい人です……」

 勢いを増すマリア信者に押されて、大公は一気に十歳は老いたようにしょぼしょぼと問いかける。

「なぜだ。なぜ、そなたは母国でもないルビエ公国の魔法使いのために体を張るのだ」
「レイノルド様を取り戻すためです」

 マリアのローズ色の瞳が揺れた。見つめる先にはレイノルドがいる。
 これだけ遠ければ、マリアを視界に入れても頭痛はしないはずだ。

「わたくし、彼に恋しておりますの。離れ離れには耐えられそうにありません」
「マリアヴェーラ……」

 気丈に笑うマリアに、レイノルドはきゅっと唇を噛みしめた。
 彼女のことは何も覚えていないのに胸が苦しい。体は覚えているからだ。

 レイノルドが駆け寄ろうとしたその時、口を引き結んでいたルーイが動いた。

「マリアヴェーラ嬢、私を弄んだのかっ!」

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