【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 ルクレツィアの後方から冷ややかな言葉が飛んできた。
 執事服にミンクの衿をつけたオースティンだ。
 正式にルクレツィアの婚約者として認められたため、毛皮を身につけている。

 装飾品が一つ増えただけだが、彼自身も自信を付けたように見える。尊大な態度は相変わらず。しかし、出会った当初から感じていた敵意は消えていた。

 ルクレツィアとオースティンの薬指には、金の指輪がきらめいている。
 本物の夫婦になる日はそう遠くない。

「マリアヴェーラさん、私たちを助けてくださってありがとうございました」

 涙を浮かべて別れを惜しんでくれるルクレツィアを、マリアはそっと抱きしめた。

「ルクレツィア様、どうかお幸せに」
「マリアヴェーラさんも」

 名残惜しく離れたマリアは、二台目の馬車に乗り込んだ。
 上質なベルベットを張った温かな客車には、真新しいフードを身につけたミオと彼の膝に丸まるニア、そして、猫じゃらしを持った意中の人がいた。

「お待たせしました。レイノルド様」

 レイノルドは、パタパタ動かしていた猫じゃらしを止めて、隣に腰かけたマリアに顔を向ける。

「もっと長くかかると思っていた」
「たくさん話すと離れがたくなりますから。体のお加減はいかがですか?」
「平気だ。傷はほとんど塞がった」

 レイノルドは防寒着の肩にそっと手を当てる。
 ルーイの剣で切り裂かれた箇所だ。

 彼が大量に出血して意識を失った際、マリアは最悪の事態を想像した。
 しかし、オースティンが号令をかけ、周囲の魔法使いと力を合わせて救命処置をほどこしてくれたおかげで一命はとりとめた。

 止血と傷の修復までは魔法でできる。
 失った血液はレイノルド自身の生命力でしか作り出せない。

 レイノルドは半月も眠り続け、マリアは毎日、彼の目が覚めるように祈りをささげた。

(その間に、タスティリヤからルビエ公国に救援物資として当座の食糧が届けられて、お兄様は忙しそうにしてらしたわ)

 先ほどダグラスが抱えていた書状は、ルビエ大公による感謝と謝罪の手紙だ。

「あんたにも心配かけたな」
「いいえ。わたくし、信じておりました。レイノルド様が必ずや目覚めてくださると」

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