【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 彼の目が開いた時、そばにいたマリアは涙が止まらなかった。
 ボロボロになった泣き顔を、レイノルドが愛おしそうに笑ってくれたのを見て、やっと確信できた。

(レイノルド様が記憶を取り戻してくださったわ)

 凶刃からマリアを守りたい。
 レイノルドが強く願い、身代わりに斬られたことで、マリアの記憶を封じていた魔法の枷がはじけ飛んだのだ。

 ちなみに、レイノルドを傷つけたルーイはルクレツィアが滞在していた塔で謹慎中。
 ジーンも連帯責任でタスティリヤ行きを認められなかった。

 驚くことに、魔法使いたちは誰一人として亡命を望まなかった。
 彼らは虐げられながらも、ルビエの平和を願って魔法を使っていたので、自由の身になれるとわかってからもルビエのために働くことを望んだのだ。

「これからのルビエ公国が楽しみですわね」

 馭者が綱を引くと、馬がいなないて馬車はゆっくりと走り出した。
 車窓からルクレツィアに手を振るマリアを、ニアを抱きしめたミオが不思議そうに見つめる。

「マリア様もレイノルド様も、どうしてルビエ公国を憎まないの?」

 子供らしい実直な質問だ。
 レイノルドは少し考えて、「マリアがそういう関係を作ってくれたんだ」と意外な答えを聞かせた。

「違う国の王族同士が互いに憎み合ったら、巡り巡っていつか戦争の火種になる。俺はルクレツィアのやり方には怒っているが、オースティンに命を救われた恩があるから、ルビエ自体を悪くは言えない」

「わたくしは、ルクレツィア様を知れば知るほど、彼女に共感するようになったんです。彼女は自分の足で立ち上がって、現実を変えようと戦った。わたくしも同じ立場なら、そうしたと思います」

「恩も共感もよくわからないや。ねえ、ニア?」
「にゃー」

 ニアはごろごろと喉を鳴らして、ミオのローブに頬ずりした。

「ミオさん。ニアさん。ありがとうございます。タスティリヤに同行してくださって」

 魔法使いを解放し、タスティリヤから食糧を融通する約束を取り付け、レイノルドはマリアの記憶を取り戻して大団円――かに思われたが、レイノルドの体調問題が残っていた。

 彼は長く記憶を封じ込められ、命に関わる傷も魔法で治している。
 以後の人生の中で、いつどんな影響が出るか誰もわからない。

 できれば、魔法に詳しい人間をタスティリヤに連れていきたい。
 マリアの願いに応じてくれたのがミオとニアだった。

 お礼を言われた二人は、人と猫なのにそっくりな顔で破顔した。

< 419 / 446 >

この作品をシェア

pagetop