【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 マリアヴェーラ・ジステッド公爵令嬢。
 またの名を高嶺の花。

 彼女はミゼルにパーマシーと別れる決心をさせ、彼がはまった投資話の黒幕を暴き出して、ミゼルの婚約解消が致し方なかったのだと証明してくれた。
 そして自らも苦難を乗り越えて、今では第二王子レイノルドの正式な婚約者になっている。

 見た目の高貴さとは裏腹にかわいい物好きな彼女が、ミゼルは大好きだ。
 もちろん友人としてである。
 親友という絶好の位置で、マリアの話を聞いてサポートできる今の状況がとても楽しい。

 マリアと一緒にいられるなら、もう男性なんていらないとすら思えるほどだ。

 しかし、父と兄はミゼルの身の上を心配している。
 早く別の婚約者を見つけてほしいと毎日のように言われている。

 ミゼルは困った。まったくもって男性に興味が湧かないのだ。

 たぶん、恋ができないわけではないと思うけれど……。
 いっそ、このまま独身を貫いて、マリアを支える女官になるのもいいかもしれない。

(独り身でいるなら、家に迷惑をかけないように仕事をしたい)

 夫人のサロンに参加して、女官の登用試験についての情報を仕入れたミゼルは、マリアや家族には内緒で勉強をはじめた。
 一人きりになる夜の時間を狙って、ランプを灯して参考書を開く。

 しかし今日は、読んでも読んでも内容が頭に入ってこなかった。

(夜更かしばかりしているせいかとても眠い……)

 諦めて眠った方がいいかもしれない。
 ミゼルはランプを消して、大急ぎで寝る準備をすると、倒れるようにベッドに突っ伏した。

 やっと眠れる――。

 意識を手放そうとしたその時、カタン、と窓の向こうで音がした。
 そちらは狭いベランダになっている。
 
(夜風で鉢でも倒れたのかしら?)

 ウトウトしながらベッドを出たミゼルは、ベランダへ続くガラス戸を開く。
 すると、やけにギラギラした紫色の瞳と視線があった。
 
「こんばんは~、ミゼルちゃん?」

< 426 / 446 >

この作品をシェア

pagetop