【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
「思い出せないというより、知らない。オレ、おかしい?」
「ええ。異常事態ですわ」

 マリアとレイノルドの婚約披露パーティーで、ヘンリーは二人の仲を引き裂こうとした人物を捕えている。知らないわけがないのだ。

 ミゼルは便箋を膝に置くと、心細そうな表情のヘンリーの手を取った。

「マリアヴェーラ様に会いに行きましょう。事情を話せば、きっと力になってくださいます」
「わかってくれるかな」
「大丈夫です。私の親友ですから」
「うん……」
 
 しおらしく従うヘンリーをミゼルは意外に思った。
 女性を食いものにする悪魔のような男性だと思っていたが、実際のヘンリーは子どものように素直だ。

(自分の欲求にも素直そうだわ)

 その時、ミゼルの部屋の戸を開けてメイドが入ってきた。

「お嬢様、そろそろ朝のお支度を……なっ!!」

 ミゼルが赤ちゃんの頃から世話をしてくれているベテランのメイドが、乱れた服装の騎士がベッドにいるのを見て飛び上がった。

「お嬢様に何をしているんです!?!!」
「あーっと、人生相談?」

 修羅場慣れしているヘンリーが答えると、メイドは廊下に向かって声を張り上げた。

「誰か来て!! お嬢様の部屋に暴漢がっ!!!」
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