【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 以前、伯爵家に強盗がやってきた時は制圧まで三十分もかからなかった。
 そういう意味では、ヘンリーは排除しなくてもいい人物だということだ。

 しかし、以前として警戒を緩めないヘンリーは、馬車に乗ってからも剣を抱きしめて手放さない。

「そんない警戒しなくても大丈夫ですよ」
「警戒なんかしてない」

 ヘンリーはむすっとした顔でミゼルの手首を掴んだ。
 掴んだというよりは支えているくらいの力なので、痛くも痒くもない。

「わかってると思うけど、オレの方が腕力は上だから舐めないでよね? ミゼルちゃんにいかがわしいことをしようと思ったらできるんだから。君のおばあさまがちょっと怖いけど!」

 強がるヘンリーに、ミゼルは思わず笑ってしまう。

「ヘンリー様が文字通りの暴漢だったら、寝落ちした私に無体を働いているはずです。ですが、なさらなかった。同意のない色恋沙汰には手を出さないと決めてらっしゃるからですよね。あなたは、ただの遊び人ではないと思います」

「……本気で言ってる?」
「はい」

 ヘンリーは鳩が豆鉄砲を食らったように真顔になった。

(これが本性でしょうか?)

 たった一晩の関係だけれど、ヘンリーが下手に心を開かない人間だということはうっすら感じていた。
 出会い頭も今朝も、彼は〝騎士〟や〝遊び人〟といった肩書きの奥にある彼自身を見せない。
 本当の自分を知られないために、それらの要素で塗り固めた自分をわざと演じているようだった。

(面白い方です)
 
 黙って見つめていたら、ヘンリーはひくっと口角を引きつらせて手を離した

「君、令嬢らしくないね。サバサバしてるって言われない?」
「婚約を解消して吹っ切れたんです。そのきっかけをくださったのが、これから訪問するマリアヴェーラ様なんですよ!」

< 433 / 446 >

この作品をシェア

pagetop