【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 ミゼルは両手を組み合わせて、心から敬愛する親友に思いをはせた。

「マリアヴェーラ様はおっしゃいました。本物の恋は相手から何も奪わないと。婚約破棄されても気丈に恋がしたいとおっしゃる彼女のようになりたくて、私も覚悟を決めたのです」
「へえ。じゃあ君も恋がしたいんだ?」

「それは、どうでしょう?」

 ミゼルは自分に恋がしたいか問いかけてみて、まったく答えが出ないことに面食らった。

 したいと思うのが自然なはずなのに、何の欲求も湧かなかったのだ。
 言われてみれば、パーマシーとの関係を清算した後に、積極的に男性のいる場に出かけたり、誰かにいい人を紹介してとお願いしたりはしていない。

「……元婚約者には感じなかった情熱的な想いを教えてくれる誰かがいるなら、してみたいと思います」

 どうせ、そんな人はいないだろうけれど。
 分かった上での発言には、やるせなさが漂っていた。

 令嬢らしくない枯れた発言に呆れられるかと思ったら、ヘンリーはそっと手をつないできた。
 顔は知らんぷりするように車窓の方をむいている。
 驚いたけれど、剣の稽古で硬くなった皮膚の感触はサラサラしていて嫌いではない。

「見つかるよ。大丈夫」

 今度はミゼルの方が慰められているようだ。

 何が大丈夫なのだろうと思いつつ、ミゼルはジステッド公爵家につくまでヘンリーの手を振りほどけなかった。
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