【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

4話 教えておばあさま

 マリアヴェーラは、ヘンリーの記憶障害を〝魔法で操られたのではないか〟と推測した。
 ただし、誰がどのようにヘンリーに魔法をかけたかは分からない。

 紅茶を飲んだところで解散し、行きと同じように馬車に乗って伯爵家に帰る。

 陽に照らされた街は活気に満ちあふれている。
 車窓の景色を流し見ていたヘンリーは、剣を抱いた格好でぼそっと呟いた。

「どうしたら、オレの記憶は戻るんだろう?」

 ミゼルは答えられなかった。

 タスティリヤ王国では魔法が禁じられている。
 外国では使われていると聞いたことがあるミゼルも、実際にどういうモノなのかは知らない。

 空気を噛むように口を開け閉てしていたら、視線を戻したヘンリーに笑われる。

「ごめんごめん。暗かったよね」

 ヘンリーだって当事者として不安を感じているはずだ。
 それなのに、こうしてミゼルを不安がらせないように笑みを浮かべている。

(強い方だわ)

 ミゼルの中のヘンリーの印象が、また少し色を変えた。

 女泣かせの噂を聞いた時は、酷い男性だと思った。
 子ども向けの物語に出てくる魔王のような、善良な人を食いものにする悪者をイメージした。

 昨晩、ベランダに現れた彼を見てもその印象は変わらなかったが、一夜明けてベッドで目覚めて噂通りの人物ではないと気づいた。

 魔王と言うより、吟遊詩人みたいだと感じたのだ。

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