【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 おどけて笑う祖母だが、目元は少しも笑っていなかった。

 祖母の情報網なら、ヘンリーが遊び人として有名な要注意人物で、あの夜までミゼルとは繋がりがなかったと知っているはず。
 祖母は、ミゼルがヘンリーに脅されて動いているのではないかと疑っているのだ。

「おばあさま、ヘンリー様は悪い人ではありません。私が彼を助けようと思ったのは、それが巡り巡ってマリアヴェーラ様の力になるからです!」

 大好きな親友の顔を思い出して、ミゼルはぽうっと赤くなった。

 気高くも美しい高嶺の花は、とてもかわいい令嬢なのだ。
 ミゼルは彼女のかわいい面をもっと知りたいし、かわいい服装をした彼女を連れ歩いて、こんなに素敵な人なのだと自慢したい。

 マリアヴェーラに比べたら、端正なヘンリーの顔さえかすんで見える。

 祖母は、マリアについて熱く語るミゼルの様子に、ふっと眼力を弱めた。

「まあまあ、ミゼルは本当にジステッド公爵令嬢が好きなのね」
「もちろんです。マリアヴェーラ様がいるので、ロマンチックな仲の男性なんていりません。ヘンリー様は顔見知り程度の面識だったのですが……なぜか放っておけない方なだけです」
「放っておけない、ね」

 それ以外に、適当な言い方がない。
 ヘンリーは友達ではないのだ。かといって恋人でもない。
 単なる知り合いというよりは深く踏み込んでしまった今、彼と自分の関係は何なのか。

 首を傾げるミゼルを、祖母はあたたかく見守った。

「仲良くなれるといいわね。でも、油断してはなりませんよ。変なことをされそうになったら、火かき棒でも何でも使って殴りなさい」
「そんなことはなさらないと思いますが……わかりました」

 ミゼルは物分かりよく頷いた。
 この時は、ヘンリーがあんな攻撃を仕掛けてくるとは少しも思わなかったのだ。
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