【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
 執事と一緒にワインクーラーを持ち上げて、ヘンリーの頭上で逆さにする。
 アイスピックで砕いた氷の山は、溶け出た水と一緒にヘンリーに降り注ぐ。

 ドシャシャシャシャ!!

 冬も間近のこの時期に、氷水をぶっかけられる衝撃にヘンリーは飛び上がった。

「つめたっ!!!」

(作戦成功だわ)

 ヘンリーが下手なことでは驚かないと予測していたミゼルは、必死に方法を模索した。
 使用人たちとも相談して臨んだのが、この氷で急襲作戦だった。

「ヘンリー様、びっくりしましたね? 頭も冷えましたね? 記憶は思い出しましたか?」

 わくわく顔で問いかけると、ヘンリーは指を伝う水滴を払いながら「勘弁してよ」と肩を下げた。

「びっくりしたし頭も冷たいよ。だけど、記憶はぜんぜんだよ」
「そうですか……」

 ミゼルががっかりするのと、ヘンリーが大きなくしゃみをするのは同時だった。
 このままでは風邪を引いてしまう。

「ヘンリー様をバスルームへ。お湯で体を温めて差し上げて!」

 ヘンリーが客室のバスルームを使う間、ミゼルは暖炉のそばのソファでうなだれていた。

「びっくりも頭を冷やすのも効果なし。残りは……」

 頭に強い衝撃を与えること。祖母は殴るといいと言っていた。
 でも、ミゼルはヘンリーを殴れる自信がなかった。

 目の前のテーブルには、執事が用意してくれた木のこん棒と、鉄の火かき棒、ミゼルが用意した掃除用のはたき棒がある。

 衝撃度は、火かき棒>木のこん棒>はたき棒の順で強いが、強ければ強いほど怪我をする。

(ヘンリー様を傷つけたくない……)

 困っていたら、耳朶に息をふっと吹きかけられた。

「ひゃっ!?」
「お待たせ」

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