【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい
(どうしよう。腕をふりほどけない……) 

 胸を締めつける切なさが、ミゼルの体の自由を奪っていた。
 目をうるませてくたっと身を任せるミゼルに、ヘンリーは「ミゼルちゃん、オレのこと好き?」と囁く。

「わ、わからないです。まだ……」
「わからせてあげる。こっち見て」

 声を吹き込まれた方に顔を向けると、すかさず唇を奪われた。

「んんっ!?」

 びっくりした。
 今までの記憶がぜんぶ飛んでしまうかと思うくらい。

 ヘンリーの腕に手をかけてもがく。
 彼は片方の手でミゼルの頬を包み、何度も角度を変えて吸い付いてくる。

 ちゅ、ちゅとなまめかしい音が響く。
 恥ずかしい。顔から火が出そう。

 息が苦しくなって思わず口を開けたら、舌が入ってきた。

(もう、無理っ!)

 ミゼルは服に忍ばせてあったベルを取り出して思いきり振った。
 チリンチリンと鳴るより早く、ドアを蹴飛ばして執事が駆け込んでくる。

「お嬢様、どうなさいました!?」

 ドアが完全に開かれる前にヘンリーが口を離したので、キスは見られていないはずだ。
 でもでも、さっきのキスが夢幻になるなんてこともない。

(私、ヘンリー様とだけはそんな関係にならないと決めていたのに!)

「ばかばか! ヘンリー様のばか!」

 涙目になったミゼルは、子どもみたいに泣き叫んで無意識に掴んだこん棒を振りおろす。

 ガツンとヘンリーの頭を殴打していたと気づいたのは、彼が悶絶して倒れたその後だった。
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