なないろ。-short stories-
東京で、何年かぶりに雪が降った。ガラゴロと音を立てて大きなスーツケースを引っ張っていくお姉ちゃんの背中を早歩きで追いかけながら、
「翔生くん」
と呟く。
視界が滲み、もういい加減慣れてもいい頃なのにな、と自分の幼さを嗤った。
飛行機の窓からは東京の夜景が見えた。
ちょうど2年前、あの人と一緒にこの夜景を眺めたっけ。
ぼんやりとその時のことを思い出して一人で笑みをこぼす。
急に眠気が襲ってきて、朦朧とした意識の中、あの時の彼の笑顔が脳裏を掠めた。
夢の中の彼は、まだ元気いっぱいに笑っていた。
はじけるような眩しい笑顔で笑いかけて、私の手を引いている。
優しい、包み込んでくれるような声で私の名前を呼んでいる。
夢が現実で、この現実が夢ならいいのに、と思う。
でもどんなに強く願ったってそんなことはありえない。だからこそ、目が覚めたとき、いつも泣いているのかもしれない。