なないろ。-short stories-
でも翼紗くんの姿を見るとそんなモヤモヤなんて一瞬でときめきに変わってしまうから自分でも単純だなと思う。
「ごめんね、待った?」
「いや、今来たばっかり」
いつも翼紗くんは微笑みながらこう言ってくれるけど、本当は十数分前、もしかしたらもっと前から待っててくれてる。
翼紗くんが15分前には待ち合わせ場所にいたのを親友の莉音が目撃しているから。
「ありがとね」
「ん、何が?ってか今日なんかいつもと違う。かわいい」
「?!?!」
不意打ちで、かわいい、なんて言われて自然と顔に熱が集まってしまう。
「瑞香がワンピースってなんか新鮮だし、その、似合いすぎて…っ…」
口元に手を当てて目線を逸らす翼紗くんの表情に、心臓がうるさいくらい鳴っているのが自分でも分かる。
そんな調子でドキドキしっぱなしのデート。
お洒落なカフェでパフェを食べて、映画を観て、おまけにネックレスまでプレゼントしてもらった。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、もうそろそろお別れの時間。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ、瑞香」
「うん、ありがとう」
「…お誕生日おめでとう。来年も俺にお祝いさせてね、大好き」
耳元で囁かれてビクッと肩が跳ねた。
かわいいね、って言われた時とは比べ物にならないくらいに胸が高鳴り始める。
そっからどうやって家に戻ったのかは分からない。