なないろ。-short stories-
「まぁいいや。花束ありがとう。じゃあ、また明日」
お礼を言って帰ろうとしたけど、手首を掴まれて動けなかった。突然のことに軽くパニックになっている私の耳の届いたのはシャラ、と金属が触れ合う音。
視線を手首に向けると、ピンクゴールドのブレスレットが視界に映った。
「え、これ、くれるの?」
「ん、プレゼントのおまけってことで」
おまけ、か。
ん?でもこれよく見たら結構な有名ブランドのやつじゃん。しかもご丁寧に “ Mizuka “ って刻印されてるし。
「じゃ、花枯らさないよーにね」
ちょっ、渡すだけ渡しておいてなんの説明もなしに、さようなら、とか出来るわけないでしょ。
「あ、そう。理由は言えないけど、いいんだよ、7本で」
思い出したようにそう告げてバタンとドアの向こうに消えた李星を呆然として見送った。
今日の李星、なんか変だったなぁ。なんか李星らしくないと言うか…
窓を開けて、小さい頃からの日課である『おやすみ』も言いあえず、朝と同じモヤモヤを抱えながらその日は眠りについた。
だから知らなかったんだ。
3歩も歩かない距離、一つ窓の向こう側で、
「っ…くそっ」
そう呟いて泣いていた李星がいたなんて。